最終更新日:

データサイエンティストのすすめ(1)

データサイエンティストのすすめ(1)

日常に氾濫する「AI」、「機械学習」という言葉

 今更申し上げるまでもないでしょうが、日常生活の中で機械学習や人工知能という用語は相当浸透しているのではないでしょうか?
特に社会人なら、今やっているめんどくさい仕事をすべて機械が行ってくれたらいいなぁと誰しも夢見ることでしょう。
 ただ、あまりにも耳にしすぎて、うんざりしているか、既に一緒に生活している錯覚さえ覚えている人も決して少なくないのではないでしょうか?
 ところで、機械学習と人工知能って何か違うものなのでしょうか?
 私はここで明確な違いを述べることはしませんし、できる身分でもありませんが、人工知能は機械学習を包含する、より広い概念のようです。

資産運用業界でも注目される「AIモデル」

 なぜ、私がそのような疑問を持ったか、それはネット上で最近発表された「資産運用と AI ~ 運用者は AI に代わられてしまうのか?」に関して論じた資料を読んだことがきっかけです(リンクは貼りませんが、題名はそのままなので、ぜひ検索してみてください)。
 資料の中では、「AI」という言葉が頻繁に登場します(AIはArtificial Intelligence、つまり「人工知能」の略)。そしてランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、ニューラルネットワークといった、AIに興味を持った方々なら誰しも聞いたことのあるモデル(問題解決手法を高度な数学や統計学で表現したもの、以下当該資料に倣い「AIモデル」とします) を用いて為替(ユーロドル)の予測を行っています。
 資料の結論は、人間の運用哲学・相場観を「AIモデル」に入力して、基本的には「AIモデル」が運用し、通常とは異なる状況が起これば人間が判断するという補完関係でうまく収益を獲得できるのではないかというものでした。
つまり、AIだけで運用を行うことはできないと言っているわけです。

「AIモデル」と「クオンツモデル」

 そもそも人工知能が注目され始めたのは2012年9月に開催されたImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge(ILSVRC)で優勝したAlexNetという畳み込みニューラルネットワークが驚異的な画像認識能力を示したことがきっかけです。
 これは明らかにリーマンショックが起こる2008年以降の話です。
 では、2008年以前、全く数理モデルを活用した投資戦略がなかったかと言えば、そうではありません。ご存じの方も多いと思いますが、「クオンツモデル」と言われる、これまた「問題解決手法を数式で表現した」モデルが金融市場では大流行しました。
 私は2008年に社会人になってから、「ランダムウォーク」、「ブラックショールズオプションモデル」、「確率微分方程式」などという言葉を頻繁に耳にしました。要は高度な数学や統計学を用いた戦略です。
 一方、「AIモデル」も高度な数学や統計学を用いた数理モデルです。少しややこしい言い方をすれば、一定の確率的もしくは確定的な条件下で関数を色々な変数で微分して極大/極小値を求めている、つまり「最適化」という点では、大雑把に言ってしまえば変わりありません。
 先ほどの資料では、「AIモデル」と「クオンツモデル」の比較について全く論じていません。

「AIモデル」っていつから使われてるの?

 AIの一種と言われている機械学習の理論自体の歴史は比較的古く、特にサポートベクトルマシンとニューラルネットワークは1960年前後に最初に注目され始め、80~90年代に一度大きな発展を見せています。
 現在は第3次人工知能ブームと言われており、理論に工学的技術が追い付いてきたことで注目度が一気に高まったと言われています。
 とはいっても、日本で大学1、2年生向けにニューラルネットワークの応用についての2007年講義に関する紹介ページから、日本の森林科学分野ではかなり前から所謂「AIモデル」がかなり活用されていたことが推測されます。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/general-education-jp/information-technology-in-forest-and-biomaterials/lecturenote
 つまり、世界的には2012年はおろか、リーマンショック前から「AIモデル」を適用した投資戦略、もしくはクオンツモデルのアルゴリズムの中でいわゆる「AIモデル」も普通に用いられていた可能性も十分考えられると思います。

 資料をご覧頂ければお分かりだと思いますが、前半と後半の2部構成となっています。前半冒頭に2018年クリスマスの世界的な株式市場の大幅下落について、ある著名な金融市場評論家(日本人です)の言葉を借りる形で「AIトレードによるかく乱」と表現しています。
 しかし、2007年8月にも「クオンツショック」と呼ばれる多くのクオンツファンドのかく乱によるアメリカ株式市場の大幅下落が起こっており、ますます「AIモデル」も「クオンツモデル」の違いが不鮮明になっている気がします。

 これはあくまで余談ですが、クオンツショック発生約1か月前の2007年7月1日から、リーマンショックが発生した2008年9月15日までのデータを元に、pythonのライブラリにある状態空間モデルを利用して、その前後のダウ工業平均株価の予測を作成しました。ピンクの線の期間に対応する実績値をモデルに投入した一方、赤の線の期間に対応する実績値は投入していません。

 予想が当たっているか、過去データに未来の予言性が含まれているか否かをここで言いたいのではありません。「AIモデル」や「クオンツモデル」を用いていたとしても、過去データが重要な判断材料になりますので、予測もそれに応じた答えをモデルは算出するでしょう。今回は単純に時系列解析モデルを使用しただけですが、芳しくない過去データや悪いニュースからから多くのモデルが図の赤い線のような予測を描いたはずです。それに従って多くの 「AIモデル」や「クオンツモデル」の運用者が株を売り、二次的に下落を加速させた結果、実績が予測をなぞることになった可能性が高いと思います。現に、当時「CTA」と呼ばれるシステムトレード専門の運用者が株価の下落に賭けた結果、莫大な利益を上げたことはあまりにも有名です。

理想の「AIモデル」は鉄腕アトム?

 最近弊社の近くにある大型スクリーンで、AIが鉄腕アトムとしてオフィスのあらゆる仕事を勝手にこなしてくれるというCMをよく見かけます。
https://www.fujixerox.co.jp/solution/promotion/innovation
 アトムに「お料理作って」、「お風呂掃除して」、「おつかい行ってきて」、「めんどくさいお仕事さっさと片付けて」となんでもお願いできるといいですよね。
 でも、例えば自動運転で、いつもはアトムが運転しても、台風のとき、目の前に人が飛び出してきたときや、巨大隕石が落ちてきたときに、「じゃあ人間さん、あとはよろしくね」となったら驚愕するでしょう。
 やはり、人間は人工知能には、いかなる局面でも最善のパフォーマンスを発揮する万能性を期待しているのではないでしょうか?鉄腕アトムをCMに起用するのも世間からの期待値の大きさを反映しているのでしょう。

 話を戻しますと、資料内の「AIモデル」は鉄腕アトムではなくて、あくまで高度な数理・統計的アルゴリズムが走る「ツール」であるが、その内容はそれぞれ異なり、インプットは同じでも、アウトプットである「最適解」も異なります。
 どの「ツール」を選択するかは人間に委ねられているとすると、やはり「クオンツモデル」を実質的に論じているのと大差ないように感じてしまいます。寧ろ、「AIモデル」は「クオンツモデル」の一種だと思うわけです。
 したがって、現時点でAIの金融市場を得意としているかどうかYesやNoを結論付けることはやや拙速な印象を持ちました。
 機械学習と呼ばれる「最適化モデル」は工学的な技術力で格段に性能が向上したものの、金融市場で投資戦略として活用するには(従前の)クオンツモデルを大幅に凌駕するほどの性能では、「現在は」まだないのではないかと表現する方が私は適切だと感じました。
 

データサイエンティストの求められる役割を考察

 私は人工知能(AI)が様々な場面で私たちにとって代わるためには、「事象に対して問題を設定でき、そのための解決法を選択できること」だと考えています。
 実は資料の中で著者は、「マーケット知識を有するファンドマネージャーにデータサイエンスの知識を教育すること」も述べており、私個人としてはこの点においてとても共感しました。
 現在執筆している2019年11月時点では、残念ながらあらゆる事象に対して、自ら問題設定と解決を行ってくれる、夢のAIはまだ存在しないようです。
 現状は格段に性能が向上した「機械学習」モデルの内容を熟知し、あらゆる問題に対して、最適なモデルを柔軟に選択できる人が求められており、それが正にデータサイエンティストだと考えています。

 このお話はデータサイエンティストのすすめ(2)で更にお話を発展させたいと思います。
 ご一読ありがとうございました。

この記事を書いた人:
富永良太
データサイエンティスト
大学時代は生体触媒の反応速度論・熱力学的解析を行っていました。金融機関ではアセットマネジメント事業に従事し、システム会社ではプログラマ(C)、DBAとして働いていました。 過去にも色々な方がデータサイエンティストとしてのブログを出していますが、自分の経験を元にした視点からブログを作成しますので、皆さんのご参考になれば幸いです。