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「デジタル異業種連携」が作り出す未来と既存市場の終焉

「デジタル異業種連携」が作り出す未来と既存市場の終焉

突然ですが「デジタル・ディスラプター」という言葉をご存じでしょうか?

「なんだ、またよく分からないカタカナ言葉か」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、グッとこらえてお付き合いください。

デジタル・ディスラプター」というのは、「デジタル技術を活用して、既存市場を破壊しながら参入する企業」のことを言います。

例えば、ホテル業界、タクシー業界、小売業に対してのAirbnbUberAmazonなどを想像して頂ければ分かりやすいと思います。

もっとも、すべての業界がこうした「デジタル・ディスラプター」に今すぐ既存市場を破壊されるか、というとそうではありません。

例えば、建設業界に「人間の力をほとんど利用せずに、ロボットやAIだけで建物をゼロから建設できる企業」などがすぐに現れる可能性は低いです。現時点で、技術的にはそのレベルまでには達していたとしても、すぐに実用化することは難しいでしょう。

しかし、Googleは既に「建設・土木」といった分野に参入していますので、そうしたサービスが登場するのは決して夢物語ではないと思います。

また、「鉄道業界」なども影響を受けにくいビジネスではあります。「鉄道」というものは元々ユーザーが「所有」して利用するものではなく、運賃を払って「一時的に使う」というものですので、「シェア」をして利用するサービスであると言えます。

鉄道は、Uberやメルカリなどのように、「個人が持っている資産や労働力」などをシェアしているわけではありませんが、「多くの人が共有のものを使う」という意味では、かなり古くから存在する「シェアビジネス」であるとも言えます。

また、莫大なインフラ整備を必要とする業界のため、簡単に新規企業が参入できる業界ではないということも要因の1つです。

だからといって「うちの業界にはデジタル・ディスラプターなんて関係ない。既存のビジネスさえしっかりやっていればいいんだ」という考え方は危険です。

実際、先述のUberは「空飛ぶタクシー」である「Uber Air」というビジネスを進めており、2023年には北米圏で営業を開始する、という計画を持っています。

参考:ウーバーの「空飛ぶタクシー」、自動車業界も参画へ、日本メーカーの可能性も

これが実現されれば、既存のタクシーやバス、鉄道といった業界は大打撃を受ける可能性があります。

空を飛べる」わけですから、当然これまでの移動方法より早く目的地に着くことができます。

しかも、価格は「従来のタクシー料金より安くなる」とさえ言われています。

もちろん、安全性や法律の整備といった問題がありますので、日本で実現されるまでには10年近くかかる可能性がありますが、それでも今後10年程度でこうしたサービスが当たり前になってしまうと、既存の交通市場は「崩壊」すると言っても過言ではないと思います。

では、どうすればこうした「デジタル・ディスラプター」から自社のビジネスや市場を守ることができるのでしょうか?

そのカギになるのが、「デジタル異業種連携」であると言われています。

「デジタル異業種連携」とは??

さまざまな業界、企業で「デジタル異業種連携戦略」はすでに始まっています。

自動車会社大手のトヨタソフトバンクと提携して自動運転技術を開発していることは有名ですが、それ以外にも、Amazon、中国配車サービスの最大手 滴滴(Didi Chuxing)、ピザハットUberなどとも提携をしました。(最も、Uberの筆頭株主はソフトバンクグループですので、当然の流れと言えば当然です)

もちろん、これまでも多くの業界、企業が異業種連携を行ってきました。

しかし、実態としては漠然とした提携や共同作業、単なる協業や分業といった場合も多く、新たな価値を生み出せないケースも少なくはありませんでした。

ところが、近年見られるような「デジタル異業種連携」は、これまでの単なる「異業種連携」とは明らかな違いを見せています。

それは、製造業を中心とした業界が「モノからコトへ」の発想を迫られていることや、「つながる経済(シェアリング・エコノミー)」という新しい概念が登場してきたことが大きな理由です。

確立された既存市場を持つ大企業が、こうした市場の変化に対応していくためには、これまでのビジネスモデルや業務の進め方などを根本的に変える必要があり、デジタルビジネスに強い企業と提携をしなければ生き残っていけないのです。

これまで、多くの日系大企業は既存事業の技術スキル、販売力などを徹底して磨いてきました。

しかし、経済性を極限まで追求した「ピラミッド構造型」の業界では、サプライヤー、顧客ともに互いの経営資源を活用した「新たな価値を創造するパートナー」という認識は薄れがちになります。

また、エンドユーザーからお金を回収し、その一部をサプライヤーに渡す、という一方的な関係でした。

このような関係から、「新しい価値の発想」が生まれにくいというのは明らかです。

新規参入のスタートアップ企業や外資系企業では、既存ビジネスを破壊し、新たなパートナーシップを上手く結んで拡大していく企業が現れています。

例えば「家計簿アプリ」を提供する「マネーフォワード」は、銀行をはじめとした金融機関をパートナーにし、ユーザーが所有している様々な口座情報をリアルタイムで見えるようにしました。

デジタル異業種連携がイノベーションを起こせる理由

これまでの通り、確固たる基盤を持つ大企業でさえも、既存のビジネスを続ける限り安泰ではないことがお分かり頂けたかと思います、

ですが、「大企業には、強みはないのか?」と言えばもちろん強みはあります。

まず、大企業には蓄積された研究開発技術やそれを発展させる人材がいます。また、顧客をはじめとする取引先などの膨大な資産社会的信用があります。

こうした強みを活かしていくことは大きなポイントになります。

また「デジタル異業種連携」が既存の壁を超えられる理由として3つのことが言われています。

それは、

① 一企業のリソースを超えた、大きく魅力ある事業を創り出すことができる

② 業界の垣根を超えて、本質的な社会問題を解決できる

③ 既存企業の膨大なリソースや信用を活かして、早期の事業立ち上げが可能

ということです。

1社単体では、できることに限りがありますので、サービスや製品のインパクトが小さくなりがちです。「異業種連携」によって様々なリソースを活用することができれば、社会に大きなインパクトを与えるサービスを提供できる可能性が高まります。

また、「いまさら人に聞けない「MaaS」の基礎知識」の記事でもご紹介したように、交通分野では「ドライバーの不足や高齢化」、「地方の交通の過疎化」といった社会問題が存在します。

1つのタクシー会社だけでは解決できない課題を、様々な近隣企業や他業界が提携することによって、解決できる可能性があります。

そして、同じビジネスをやるのであれば、スタートアップ企業よりもリソースが潤沢で社会的信用もある大企業が実施するほうが、成功する確率は高まります。

近年ではすっかり世の中に浸透してきた「SNS」や「サブスクリプション」といったビジネスは、「薄く広く」顧客から代金を回収し、長期間に渡って利用してもらうことで初めて収益化ができるビジネスモデルになっています。

つまり数年間、場合によっては10年近く「赤字事業」になってしまう可能性があります。

スタートアップ企業はでは、サービスの内容が良いのにも関わらず、代金の回収ができずにキャッシュが尽きてしまうことがありますが、大企業であればその点は非常に有利に進めることができます。

もちろん、ファイナンスに重大な影響を与える規模の新規事業を10年も赤字にしてしまえば、企業経営の根幹を揺るがすことになりますので、財務管理はきちんと実施する必要はありますが、「本業での儲けが十分あり、新規事業の赤字にある程度耐えられる」というのは大企業の強みになります。

では、「デジタル異業種連携」のためには、なにが必要になるのでしょうか?

「デジタル異業種連携」に必要な10個のマネジメント手法

紙面の都合上、ここでは簡単な紹介に留めさせて頂きますが、「デジタル異業種連携」を進めていくにあたって、必要となる「10個のマネジメント手法」というものをご紹介したいと思います。

① 理念・ビジョン・ゴールの共有
② 各社の経営資産に関する重要方針、制約条件をある程度明確化する
③ 各社のプロジェクト体制とデジタル異業種連携プロジェクト体制をつくる
④ 必要なリソースを出し合う(ヒト・モノ・カネ)
⑤ 参加する各社リーダー・担当者への権限委譲
⑥ 効果的に機密保持契約を結ぶ
⑦ プロジェクト、フェーズの期限を決める
⑧ プロジェクト参加に必要な知識・スキルセットの共有
⑨ チームビルディングのための相互理解や相互学習
⑩ スタートアップの組織文化を作りだす

近年の企業経営では、「理念・ビジョン」といったことがより重要になってきていますが、「デジタル異業種連携」の場合は自分の企業だけではなく、複数の企業が共通の理念やゴールを作り出して、共有していくことがとても大切になります。

また、各社がプロジェクトに対してどのようなリソースを提供できるのか、プロジェクト体制のルール、法務的な整備なども一般的なプロジェクトより複雑になります。

外部に情報を漏らしたくないからといって最低限な情報しか提供しなかったり、最初からガチガチな秘密保持契約などを結んでしまうと、オープンな関係を作りだすことができなくなってしまいます。

そして、業界や業種、企業規模などを超えて様々な人材が集まってプロジェクトを進めていく必要がありますので、プロジェクト進行に必要な知識やスキルの確認・共有、チームの仲を深めるためのイベント開催なども大切になってきます。

このように、「デジタル異業種連携」ではプロジェクト運用にあたって検討するべきことや、やるべきことが山のようにあります。

ほとんどの人が経験したことのないような取り組みをしていくのですから、「仲間と協力しつつも、自分が主体となって乗り越える」という気持ちがなければ成功はあり得ません。

これまでのように、ITベンダーやコンサルティング会社に業務を丸投げしてしまうような姿勢では絶対にうまく行かないことはご理解頂けるかと思います。

まとめ : 「デジタル×巻き込む力」が未来をつくる

今回は、『「デジタル異業種連携」が作り出す未来と既存の市場の終焉』というテーマでお話をしてきました。

これまでの伝統的な日系企業が作り上げてきた市場を、ほんの数年で破壊してしまう「デジタル・ディスラプター」という存在や、その「デジタル・ディスラプター」に既存市場を破壊されないために様々な企業が協力し合って新たなビジネスを作り上げていく「デジタル異業種連携」という取り組みをご紹介してきました。

AIやIoTといった最新のデジタル技術を活用すること自体のハードルは、年々下がってきています。

そうした技術を活用して経営やビジネスを変革していく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」についても、「自社だけ」の取り組みに限定すれば、半年や1年程度でも何かしらの成果を出すことは、それほどの困難を伴わなくても実現できるケースもあります。

関連記事:DXに踊らされない!通常のITプロジェクトとの「3つ」の違いを理解する

しかし、「デジタル異業種連携」や「MaaS」といった取り組みを実現させていくためには、デジタルの活用に長けているだけではなく、「他者(他社)を巻き込んでいく強烈なリーダーシップ」が必要になってきます。

サッカーのJリーグにおける初代チェアマンを務めた川淵三郎氏は、Jリーグの設立(サッカーのプロ化)にあたって多くの企業や関係者から猛烈な反対を受けました。

それでも、「サッカークラブが地域に根付き、サッカーが文化として認められる日が必ず来る」と信じて、強烈なリーダーシップを発揮しプロサッカーリーグの設立を実現させました。

我々は、こうした「リーダー」になることはできないかもしれません。

しかし、「リーダーを支える」という役割を担うことができれば、それは最高のやりがいになると信じています。

異業種連携やってみたいけど、どうしたらいいかな?」というざっくりとしたご要望でも構いませんので、ぜひJDDLと共に「デジタル×巻き込む力」を作っていきませんか?

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

【参考文献】
中央経済社 「デジタル異業種連携戦略」 高橋 透 著

この記事を書いた人:
須賀優樹
データプランナー・スポーツビジネスマニア
「データとビジネスをいかに結び付ければいいのか?」をテーマに、分析設計やビジネスモデルの研究をしています。得意な分野は「経営戦略」と「スポーツビジネス」です。最近は「フリーミアム戦略」に興味があります。