最終更新日:

いまさら人に聞けない「MaaS」の基礎知識

いまさら人に聞けない「MaaS」の基礎知識

最近では、「車の自動運転技術」や、「自転車のシェアサービス」など、「交通サービス」に色々な変化が起き始めています。

自家用車(マイカー)を所有している方も多いかと思いますが、これからは、車というモノを「所有」するのではなく、あらゆる移動手段を使って便利な生活を送るための「1つのサービス」という考え方になっていくと言われています。

今回は、そうした「交通」に関する新しい概念としての「MaaS(マース)」というものを取り上げて解説してみたいと思います。

自動車業界や交通インフラ業界などでは、とてもホットな話題として注目されていますが、まだまだ一般の方には浸透しているとは言えない「MaaS」。

MaaS」とはいったい何なのか? 実現するためには何が必要なのか? 日本における課題は? などをご紹介していきたいと思います!

「MaaS」ってなに?

MaaS」というのは、

Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)

の略で、「マース」と発音されています。

「モビリティ」という言葉は、「移動」や「可動性」といった意味がありますが、一般的には「交通手段そのもの」を指していることが多いようです。

つまり、「MaaS」というものは、「サービスとしての交通手段」ということになります。

サービスとして」というのが重要なポイントです。

なぜなら、これまでの「交通」というものは、「サービス」というより「モノ」を提供することがメインであったからです。

モノ」というのは、「手に取って触れることができる」ようなものを指します。

ここで言うと、「電車」や「」という「物体そのもの」ということになります。

自動車業界で言えば、これまでは「生産台数」や「販売台数」といったことが、メーカーの力やブランドを表す指標でした。

これは「車」という「物体」をいかに数多く売ったのか、という視点です。

電車」においては「主要な都市にどの程度駅を持っているか」や「乗客数」、「郊外から都心までの所要時間」などが重要な指標となります。「ヒトを輸送するモノ」としての視点です。

しかし、「サービス」となると話は変わります。

これまでは主役であった「車」や「電車」という物体は、「サービス」という価値を提供するために利用される「手段」、という概念に変わります。

したがって、「車」を販売する側にとっては、「販売台数」などではなく「車を通じてどのようなサービスを提供できるのか?」というのが重要な価値になりますし、車を利用する側にとっては、「車を所有しているかどうか」はもはやあまり関係がなく、「車というモノを通じて、いかによりよい生活を実現できるか」ということが重要になってくるのです。

Maasの概念を提唱した人物である、フィンランド人のSampo Hietanen氏によれば、MaaSとは、

あらゆるモビリティサービスを組み合わせて、クルマを所有する生活よりも、より良い生活を実現するサービスを作り出すこと」

と述べています。

つまり、MaaSをもう少し具体的に言えば、既存の公共交通(鉄道、バス、路面電車)に加えて、ICTの発達により生まれた「ライドシェア」や「カーシェアリング」、「自転車シェアリング」などを組み合わせて、マイカーを所有するより環境面でもより良い暮らしができるのではないか、というアイデアなのです。

以前から、多様な輸送手段を組み合わせることで環境負荷を減らすという、「マルチモーダル」という考え方がありました。MaaSは、従来の「マルチモーダル」の考え方に、先ほどの「次世代モビリティサービス」を組み合わせたものであるとも言えます。

よって、「MaaS」という概念のもとに実現するサービスは、鉄道会社や自動車会社が1社だけで頑張れば実現できるというものではなく、様々な交通インフラや企業、商業施設、行政、地域といった関係者が一体となって協力して実現していく必要があるのです。

「MaaS」には「レベル」がある!

さて、「MaaS」というものがどんなものかを大体ご理解頂けたところで、「うちの会社もMaaSやるぞ!!」と意気込んでいらっしゃる方や、幸か不幸か、上司から「Maasプロジェクトをやりなさい!」と指示を受けた方もいらっしゃると思います。

そこで次に気になるのは、「じゃあ、何から始めればいいのか?」ということかと思います。

何をやるか」の前に「なぜMaaSをやるのか」をきちんと決めるべきではありますが、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「データドリブン経営」などと同様に、「理由はともかくとして、とにかく何かやらなければないない」というのが実情かと思います。

ですので、この章では、「MaaSのレベル」というものを簡単にご紹介致します。

「MaaS」がどれくらいのレベルまで達成されているのかどうかを図る評価として、スウェーデンの研究者がまとめた「MaaSレベル」というものがあります。

この「MaaSレベル」は、以下のように「0 ~ 4」の5段階で構成されています。

● レベル0 「統合なし」

単独の交通事業者による経路検索・運賃案内(例「JR東日本アプリ」など)

レベル1 「情報の統合」

複数の交通事業者を横断した経路検索・運賃案内(例「ジョルダン乗換案内」アプリなど)

レベル2 「予約と決済の統合」

一時利用での検索から支払いまでの総合サービス(例「JapanTaxi」アプリなど)

レベル3 「提供するサービスの統合」

サブスクリプション(定額制)を含めたサービス提供(例「Whim」アプリなど)

レベル4 「社会全体目標の統合」

国の政策レベルでサービス提供

「Whim」というサービスは、現在、世界で最も「MaaS」が進んでいるとされているフィンランドで運用されてるアプリの名前で、先述のSampo Hietanen氏が発案したものになります。

したがって、現実としては「レベル4」まで達した国やサービスというものはまだ存在せず、最高でもレベル3となっています。

交通インフラ事業者であれば、「レベル0 」の「単独の交通事業者による経路検索・運賃案内」といったアプリは既に運用している場合が多いかと思います。

しかし、自社の交通インフラの案内をしているだけではまだ最低レベルであり、少なくとも「レベル2」の 「予約と決済の統合」あたりまでを取り組んでいかないと、「MaaSをやっている」というレべルには届かないかもしれません。

仮に「レベル2」を鉄道事業者が達成するとすれば、例えば、「経路検索をした結果に対して、アプリ内で交通費を事前決済できる」ですとか、「駅ビル内のショッピングにおいて事前決済ができ、商品を受け取るだけで済む」といったサービスの提供が必要になります。

前者の「経路検索をした結果に対して、アプリ内で交通費を事前決済できる」というのは、1つの企業だけが頑張っても実現できません。

ユーザーが使用するであろう、すべての交通インフラに対しての事前決済」が可能でなければならないからです。

ですので、前述のように「MaaS」という概念は様々な交通インフラや企業、商業施設、行政、地域といった関係者が一体となって協力して実現していくことを「前提」として、プロジェクトを進めていく必要があるのです。

「MaaS」で必要なテクノロジー

MaaSの概念やレベル感なども分かった。ではどんな技術を使ってそれを実現すればいいのか?」というのが気になる方も多いかと思います。

ここでは、「MaaS」を実現するために重要だとされている技術を3つご紹介致します。

それは、「プラットフォーム」「データ連携」「自動運転」という3つです。

「プラットフォーム」

ここでは、「プラットフォームとは何か」は割愛致しますが、ひとことで言えば、ビジネスにおけるプラットフォームは、「商品やサービスを作る際のベースとなるもの」と言えます。

プラットフォームと言えばGAFA」のイメージが強い方もいらっしゃると思いますが、「プラットフォーム」自体はネット空間に繋がっているかどうかは関係なく、家庭用ゲーム機市場における任天堂や、巨大ショッピングモールのイオングループなども「プラットフォーマー」と言えます。

交通に関わる分野では「Uber」が目覚ましい展開を見せています。ライドシェアや配車サービスだけではなく、貨物輸送や空輸などにも進出しています。

フィンランドから発祥した「MaaS」はこうした「プラットフォーム」を上手く活用したビジネスであるとも言えます。

単体の移動サービスだけではなく、公共交通機関と次世代型モビリティを組み合わせて、「マルチモーダル」を実現しています。

また、交通事業者は得てして「ユーザーに対するサービス作り」を苦手としている傾向があります。

これに対して、フィンランドでは、サービス作りに長けた第三者が、オープン化されたデータを集めて、ユーザー目線のサービス作りをしたほうがよいのではないか、という考え方を持っているようです。

「データ連携」

MaaS」の実現にあたっては「データ連携」が非常に大きなポイントになります。

前述のように、「MaaS」は様々な利害関係者が協力し合って作り上げていくことが前提となります。

時刻表などの静的情報はもちろんのこと、リアルタイムな運行状況や交通情報、予約状況、小売、飲食、観光等との各種データ連携も必要になります。

したがって、「データが共有されるデータプラットフォーム」が重要になるのです。

ところが、日本でこれを実現するとなると大きな壁が立ちふさがります。

それは、「公共交通サービスを担っている大多数が民間企業である」ということです。

MaaSで先行している欧州では、多くの国が「国営」で公共交通機関を運営しています。

よって、国の政策を反映しやすいことや、データの共有などもしやすいメリットがあります。

しかし、日本のように「民間企業」がその大部分を担っているとなると、データ連携は容易ではありません。

基本的には、データは「自社の資源」であり、他社や外部にデータを公開することをためらう場合が多いからです。

もし、「テータ連携」が実現すれば、1つ1つの事業者の経営努力のみでは解決が難しい交通サービスの課題を、地域全体や社会全体として検討・分析することができるようになり、サービスの向上や経営の改善に役立つようになります。

先述の「プラットフォーム」も、「データ」が一元的に集まることによってどんどん価値が高まっていきます。

せっかく「プラットフォーム」の仕組みをつくっても、肝心な「データ」が集まらなければ、「MaaS」を進めることができません。

この部分は、日本で「MaaS」を進める際に最も大きな障壁となりそうです。

「自動運転」

最後は「自動運転」という技術です。

「自動運転」が重要な理由は、日本における社会的な問題があります。

少子高齢化や都市部への人口集中によって、地方は「過疎化」してしまい、公共交通機関の利用者は減少し続ける一方です。

また、近年では「バス」や「タクシー」の運転手の高齢化や、人材不足高齢ドライバーの運転事故など、数多くの「交通課題」が浮き彫りになってきています。

そうした社会状況の中で、「運転」という行為をロボットあるいはAIといった技術に任せることができれば、かなりの負担軽減になり、事故の防止やドライバー不足解消に繋がります。

企業としても「交通サービス」の担い手である「運転手」に対して多くのコストをかけてきましたが、これが実現できることによってコストを大きく抑えることができるようになります。

何より、「運転手」が存在しない「無人運転車」では、ユーザーがその場で運賃を支払ったり、行き先を聞いたり、お金の両替を依頻したりという行為ができなくなります。
(もちろん、「スマホ決済」や「チャットボット」といった機能は搭載されるでしょう)

ですので、前述のように「事前の経路検索・予約・決済」といったことが必須になってくるのです。

さらに、データがどんどん集まってくれば、その時に最適なルートの走行や、異なる交通サービス同士の連携の精度も高まってきます。

こうしたことを人間の頭の中で、その場で判断して実行するというのは不可能です。

したがって、特に日本のような少子高齢化や地方過疎化の社会においては、「自動運転」が必須になるのです。

以上の理由から「MaaS」を実現させるためのテクノロジーとして「プラットフォーム」「データ連携」「自動運転」が重要であることが、ご理解頂けたのではないでしょうか。

まとめ :「MaaS」は社会を激変させる可能性を秘めている

今回は、『いまさら人に聞けない「MaaS」の基礎知識』、というテーマで、「MaaSとはそもそもなんなのか?」「どうやって進めていけばいいのか?」「必要なテクノロジーはなにか?」といったお話をさせて頂きました。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「データドリブン経営」なども同様ですが、なにごとにも「段階(レベル)」というものが存在しています。

今まで全くデータを活用したことがない企業が、いきなり「AIをやりたい」というのはほとんどの場合で失敗しますし、自社の業務のデジタル化が進んでいないような企業が、顧客に対してデジタルサービスを提供するのは、かなり難しいです。

ですので「MaaSをやりたい!」と思ったときにまず大切になるのは、「自社の立ち位置の理解」や「自社のMaaSレベルの把握」です。

他社に負けないような「大きな計画を作りたい」というお気持ちはもちろん理解できますが、まずは足元を見て、小さなことをしっかりと進めていくことが大切なのではないかと思います。

また、「MaaS」はこれまでの交通インフラ・交通サービスの常識を大きく覆す概念であることから、自分たちの企業だけが理想を追及しても、「MaaS」を達成することはできません。

社会を激変させる可能性を持った「MaaS」の実現は、我々の「人間としての器」を試されているといっても過言ではないと思います。

今回は「事例」などはご紹介できませんでしたが、また別の機会で「MaaSの事例」もご紹介していきたいと思います。

JDDLは「移動・交通分野におけるデータ活用の先駆者」を目指しています。

ぜひ日本の「MaaS」を一緒に盛り上げていきませんか?

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人:
須賀優樹
データプランナー・スポーツビジネスマニア
「データとビジネスをいかに結び付ければいいのか?」をテーマに、分析設計やビジネスモデルの研究をしています。得意な分野は「経営戦略」と「スポーツビジネス」です。最近は「フリーミアム戦略」に興味があります。